大御（おおみ）神社は、皇祖（こうそ）・天照皇大御神（あまてらすすめおおかみ）を御祭神とする古社（こしゃ）です。創建は不詳ですが、当社に伝わる「神明記（しんめいき）」その他の古文書によれば、往古、天照皇大御神（あまてらすすめおおかみ）の皇孫（こうそん）である瓊々杵尊（ににぎのみこと）が日向の国（ひむかのくに）の高千穂（たかちほ）に天降（あまふ）りします。瓊々杵尊（ににぎのみこと）が当地を御通過した際、千畳敷（せんじょうじき）の盤石（いわお）にて絶景の大海原（おおうなばら）を眺望され、皇祖（こうそ）・天照皇大御神（あまてらすすめおおかみ）を奉祀（ほうし）して平安を祈念（きねん）されたのが創始（そうし）と伝えられています。後世、この千畳敷（せんじょうじき）の盤石（いわお）の霊石（れいせき）の在る所に一宇（いちう）を建て、天照皇大御神（あまてらすすめおおかみ）を勧請（かんじょう）し村中の鎮守（ちんじゅ）と崇敬（すうけい）し奉斎（ほうさい）したとされています。

また、神武天皇（じんむてんのう）（神日本磐余彦命（かむやまといわれひこのみこと））の御東遷（ごとうせい）の砌（みぎり）には、細島港（ほそしまこう）口に鵜の鳥が多く群れているのをご覧になり「此の島は鳥辺島（とりべしま）か」と詔（おお）せになりました。これが今の「兎邊島（とべしま）」です。これより沖に進んだ枇榔島（びろがしま）辺りで大鯨（おおくじら）が浮沈するのをご覧になり、お持ちの鉾で大鯨（おおくじら）を突くと、大鯨（おおくじら）は美女に化身して「我は此の辺に住める者、今子を生む間、何卒一命を助けたまへ」と一心に願います。これを憐れんだ神武天皇（じんむてんのう）が、これを許すと美女は大鯨（おおくじら）に戻り海の中に消えていきました。そのことから神武天皇（じんむてんのう）は、美女島（びじょじま）・美女ヶ島（びじょがしま）と名付け、後、枇榔島（びろうじま）に転じたとされています。暫くして、風が強くなり、島に船を着けると当地の海人が急ぎ返っていきます。それを見た神武天皇（じんむてんのう）は海人を呼び止め、何故に急ぎ返るかと問います。海人は、四時日の半ばより大鯨（おおくじら）が来て恐ろしいので返ると申しあげたところ、神武天皇（じんむてんのう）は「それは釣する日が少ない。出漁が自由でないであろう。此の後は此の島辺に来ぬ様に致して置うとて此の鉾（ほこ）を島に納置（おさめおき）した故に是を御鉾（みほこ）神として祭るべし」と詔（しょう）し、大鯨（おおくじら）を退治された御鉾（みほこ）を建てます。海人は大いに感謝して「鉾島（ほこしま）の鉾神（ほこがみ）様ぢゃ」と悦び帰ったとされています。後世、鉾（ほこ）が細（ほそ）となり、鉾島（ほこしま）が細島（ほそしま）に転じたとされています。神武天皇（じんむてんのう）はこの時、伊勢ヶ浜（いせがはま）（港）に入られ、天照皇大御神（あまてらすすめおおかみ）を奉斎（ほうさい）する御殿（ごてん）（現在の大御（おおみ）神社）に武運長久と航海安全を御祈願されたと伝えられ、大御（おおみ）神社の西に横たわる櫛の山（くしのやま）と、東に隆起する米の山（こめのやま）（久米の山（こめのやま））は、神武天皇（じんむてんのう）の先鋒（せんぽう）の天櫛津大久米命（あまくしつおおくめのみこと）の名に因むものであるとされています。昭和9年の神武天皇（じんむてんのう）御東遷（ごとうせい）2600年の記念祭が全国に執行（しっこう）せられた時、県下の七聖地（ななせいち）のひとつとして顕彰（けんしょう）され、全国奉賛会（ほうさんかい）会長・齋藤実（さいとうまこと ）子爵（ししゃく）の御来町を仰ぎ盛大なる式典が挙行されました。

当社は日知屋（ひちや）城主伊東氏（いとううじ）ら歴代城主はもちろん、延岡（のべおか）城主、幕領代官等に尊崇（そんすう）され、地方の民も「日向のお伊勢さま」と呼んで崇敬（すうけい）し、且つ親しまれてきました。大御（おおみ）神社の社名（しゃめい）は、天照皇大御神（あまてらすすめおおかみ）の大御（おおみ）をいただいて社名（しゃめい）としたと近年は伝えられてきていましたが、本殿（ほんでん）に残る天保（てんぽ）・安政（あんせい）年間（1830-1860）より大正5年までの祈願木札（きがんきふだ）には天照皇大神宮（てんしょうこうたいじんぐう）と記されています。そのことから、「日向のお伊勢さま」との名称は、元々は当地が元伊勢（もといせ）と見られていたことを示すものとされています。

境内西側、海岸の岩群を見下ろす通称ボウズ山から、塩見川（しおみがわ）河口である鵜戸の瀬（うどのせ）に至るまでの海岸一帯には、平成15年の秋の境内地拡張の折に発見された、日本でも最大級のさざれ石群があります。君が代にも歌われるさざれ石は、約2000万年前、広範囲に渡って浅い海岸平野の河口付近であった当地に大量の礫（れき）（石ころ）がたまり、粘土・砂などと混じり合い、さざれ石の巌（いわお）として固まったものです。そのさざれ石群の中で、周囲30ｍ・高さ4ｍと最も大きなさざれ石は、神座（かみくら）と名付けられ、天孫（てんそん）瓊々杵尊（ににぎのみこと）がこの上にお立ちになり、絶景の大海原（おおうなばら）を眺望されたものとされています。またこの神座（かみくら）のさざれ石前には、明らかに人工物と見られる水窪（みなくぼ）があります。水窪（みなくぼ）は、すり鉢状の丸い壁面に渦巻き状の線が刻まれ、その底には長径1m、短径70cmの卵状のさざれ石が据えられています。この渦巻き状の壁面は「龍（りゅう）」、卵型のさざれ石は「龍（りゅう）の卵」、水溜りは「龍（りゅう）の胎盤」、溜まれる水は羊水、そこに生命の源を意味する「龍（りゅう）の霊（れい）（玉（たま））」を表しているとされ、古代の龍神信仰（りゅうじんしんこう）を裏付けるものと考えられています。

古代の龍神信仰（りゅうじんしんこう）としては、海に面した岩窟（がんくつ）である境内摂社（けいだいせっしゃ）の鵜戸（うど）神社の最奥から海岸を振り返ると昇り龍（りゅう）が見えること、社殿（しゃでん）の建つ柱状岩（ちゅうじょうがん）の一番南側の壁面に、シュメール文字で「ジャスラ（蛇神（へびがみ））」と書かれていることなどから、神社としての創始（そうし）、もしくは祭祀場（さいしじょう）としての創始（そうし）は、5000年前の古代に遡（さかのぼ）る可能性も示唆されています。

現在の社殿（しゃでん）は、昭和13年（1938）10月に全面改築されたものであり、建物全体が直線形の木造銅板葺（もくぞうどうばんぶき）で切妻屋根（きりづまやね）を支える力柱（ちからばしら）を持ち、棟の両端にV字型に千木（ちぎ）を突き出す神明造り（しんめいづくり）が特徴です。本殿（ほんでん）裏の波打つ柱状岩（ちゅうじょうがん）と相まって独特の雰囲気を醸し出し、特に海岸より観る姿は実に美しく、社殿（しゃでん）前の階段から海に降り、見ることができます。平成11年10月14日には社殿（しゃでん）（本殿（ほんでん）・幣殿（へいでん）・拝殿（はいでん））は、国登録有形文化財の指定をうけています。設計施工は当時全国的に活躍していた四国出身の宮大工・谷山武義（たにやまたけよし）で、建築資材は高千穂（たかちほ）地方の神社の境内木（けいだいぼく）（杉材）が使われています。その後は改築もほとんどされておらず、当時の関係者の日記に立案から落成までの経緯が克明に記録されており、設計図も原本のまま、又建設中の写真も保存されています。

社殿（しゃでん）の建つ土台となっている柱状節理（ちゅうじょうせつり）（溶結凝灰岩（ようけつぎょうかいがん））は、今から約1500万年前、海底火山の活動により、海岸一帯に多量の火砕流が押し寄せ堆積した後、長い年月をかけて固まったものです。長寿を象徴とするめでたい亀（がめ）を思わせる形状となっており、社殿（しゃでん）を支え親亀（おやがめ）とされる亀岩（かめいわ）、その東海岸に子亀（こがめ）、孫亀（まごがめ）の2体の亀岩（かめいわ）も並び見ることができます。