後に神女（しんにょ）の浦姫（うらひめ）として祀（まつ）られる乗蔵（のりくら）は、幼き頃より正直にして慈愛深く、祭祀（さいし）を奉（たてまつ）ることを好みました。16歳の時には臥（ふ）せっていた母親を3年にも渡り、甲斐甲斐（かいがい）しく看病する孝徳（こうとく）も積んでいました。母親は、その今際（いまわ）の時に感謝の言葉と共に、いつか人から拝（はい）されるようになるだろうと言い残して亡くなったと伝えられています。

乗蔵（のりくら）が神懸（かみが）かりしたその日、乗蔵（のりくら）は陽も昇らぬうちに起き「前日の夜、神様からの御告（おつげ）あり岩戸（いわと）を詣（もう）でん」と告げ、導（みちび）かれるように磯辺に下り、塩水を汲（く）んで岩戸（いわと）に入ります。すると四方は白雪が満ちる銀世界となり、奥より飛んできた大きめの砂粒が眉間（みけん）に当たり、我に返ると忽（たちま）ちの内にボンヤリと左右の石壁に諸々（もろもろ）の神々の姿が浮かび上がりました。そして参詣（さんけい）する人々に向って「貴方（あなた）たちはなぜこの神々を見て奉（たてまつ）らないのか！ここに神々が御座（おわ）します！畏（おそ）れ敬（うやま）うことなく入ってはいけない！」と戒（いまし）ると人々は驚いて退出しました。

その後、乗蔵（のりくら）は帰宅すると自（みずか）らの汚（けが）れを恥じ、急いで汐（しお）ゆ（海の塩水）を取らせ、中に交じった砂を米を食べるが如（ごと）く噛みしめると、口の脇から血が流れ出し、その口を汐（しお）ゆで漱（ゆす）ぎました。暫（しばらく）くすると、岩戸（いわと）が開いた由縁（ゆえん）を語り始め、諸々（もろもろ）の神々の御託宣（ごたくせん）を聞き及んだ人々は、畏（おそ）れ慄（おのの）いたのでした。この時、乗蔵（のりくら）は42歳。乗蔵（のりくら）の神憑（かみがか）りの後、岩戸（いわと）から出ていた大きく光る物は出なくなりました。

同年（1610）8月12日の月の明るい夜更け。乗蔵（のりくら）の枕頭（ちんとう）に童男（おぐな）・童女（どうじょ）が忽然（こつぜん）として現（あらわ）れ、海宮（わたつみのみや）を見ておいた方が良いであろうと宣り、乗蔵（のりくら）は荒磯（あらいそ）に誘（いざな）われました。童女（どうじょ）は手鉾（てぼこ）を左右の手に携（たずさ）えて先に立ち、童男（おぐな）は右手に紙垂（しで）の附（つ）いた榊（さかき）、左手に紅（くれない）の絹（きぬ）の附（つ）いた笹（ささ）（篠（しの））を持って海の中に入ると潮水が左右に分れ、乗蔵（のりくら）がその後を従い行くと程なく海宮（わたつみのみや）に至りました。

壮麗（そうれい）荘厳（そうごん）な海宮（わたつみのみや）には諸々（もろもろ）の神々が数知れず並んで座り、乗蔵（のりくら）を迎える宴（うたげ）が行われました。しばらくして乗蔵（のりくら）が戻るときも童男（おぐな）・童女（どうじょ）が導（みちび）き「今回開いた岩戸（いわと）はこの海宮（わたつみのみや）との通路である」と告げます。そして、やがて国主（こくしゅ）より御社（おやしろ）が建立（こんりゅう）され、乗蔵（のりくら）の子孫が神職（しんしょく）を継（つ）ぐこととなると宣ります。続けて童男（おぐな）が「龍宮（りゅうぐう）の都（みやこ）を見する有様（ありさま）を人に語るなつつしめよ」と歌い、童女（どうじょ）が「つつしみて萬（よろず）を祷（いの）れ叶（かな）ふべし龍（りゅう）の都（みやこ）の有らん限りは」と歌います。この2首を授（さず）け、童男（おぐな）が手に持った紅（くれない）の絹（きぬ）を岩戸（いわと）の懸（か）け置くよう告げます。童男（おぐな）・童女（どうじょ）が帰ると辺りは、白々と夜が明けてきていました。

家に帰った乗蔵（のりくら）は、急いで身を浄（きよ）めて岩戸（いわと）に詣（もう）でて岩戸（いわと）の入口に紅（くれない）の絹（きぬ）を懸（か）けます。それを見た人々は奇異（きい）なることと訝（いぶか）しがるも、それ以降、乗蔵（のりくら）は海宮（わたつみのみや）へ通うと言い残して、姿を見失うことが度々（たびたび）あり、彦火々出見尊（ひこほほでみのみこと）（山幸彦（やまさちひこ））の御時（おんとき）より海と人との通路が絶えていた海宮（わたつみのみや）へ、海神（わたつみ）の教えにより、行き通ったと伝えられています。

乗蔵（のりくら）が初めて海宮（わたつみのみや）に通ったとされるその翌13日の夜。乗蔵（のりくら）の家に金色（こんじき）の光が輝き渡り、乗蔵（のりくら）は口から幾度も血を吐きます。その後、清水（きよみず）を汲（く）ませて大量に飲み干して吐くこと5～6度。突然に、「我は海の神なり。国家安穏（こっかあんのん）ならしめんために爰（ここ）に現（あらわ）す、我を信ずる輩（やから）は萬意（ぐうい）の如（ごと）くなるべし。血を吐かせしは、臓腑（ぞうふ）を清浄（せいじょう）ならしめんためなり」と御神託（ごしんたく）が降（お）り、先に天照大御神（あまてらすおおみかみ）の御託宣（ごたくせん）、次に春日大神（かすがのおおみかみ）、その次に八幡大神（はちまんのおおみかみ）の御託宣（ごたくせん）、そしてその次に日本国中の神祇（じんぎ）の御託宣（ごたくせん）がありました。しばらくしての後、改めて海神（わたつみ）の御託宣（ごたくせん）がありました。その御神託（ごしんたく）を聞いた人々は、畏（おそ）れ敬（うやま）うばかりでした。同年10月21日には、乗蔵（のりくら）に「今より後五ヶ年の間五穀を断ち、唯（ただ）茶酒（ちゃさけ）を呑（の）み、家内（かない）に穢食（えじき）を忌（い）むべし。又（また）此一邑（このいっそん）の中生（ちゅうしょう）を殺す事を忌（い）むべし」と御告（おつげ）げがあり、その後、乗蔵（のりくら）は茶と酒のみを飲みて、五穀を始め一切の食物を断ちます。その5年の後の正月13日に御告（おつげ）によりに食事は常に戻りました。

乗蔵（のりくら）は浦姫（うらひめ）として祀（まつ）られるようになり、岩戸神窟（いわとのかみのいわや）の側（そば）に一間（いっけん）ばかりの参談所（さんだんしょ）を構えました。日々詣（もう）でる人たちの既往（きおう）を語り、未然（みぜん）をはかり、吉凶（きっきょう）・禍福（かふく）を告示（こくじ）すること違（たが）えるありませんでした。その霊験（れいげん）は遠近に知れ渡るところとなり、福岡藩主（ふくおかはんしゅ）の黒田忠之公（くろだただゆきこう）の耳に届くところとなりました。

黒田忠之公（くろだただゆきこう）はその真偽（しんぎ）を確かめるため近臣（きんしん）を下男（げなん）の体（てい）に仕立（したて）て遣（つか）わしました。その次第を全て事前に見通していた浦姫（うらひめ）は、国主（こくしゅ）からの御遣（おつか）いが来るのため饗応（きょうおう）の準備をして待っていました。使者（ししゃ）が門前に着いた頃に「今参られた年頃は何歳程で、某色（なにがしいろ）の色の衣服を着た方は国主（こくしゅ）からの使者（ししゃ）なので、こちらへ迎え入れてください」と言い、使者（ししゃ）を招き入れました。

使者（ししゃ）は、自分は下男（げなん）に過ぎず、私事（わたくしごと）を尋（たず）ね参（まい）ったのに過ぎないと申すものの、浦姫（うらひめ）は笑って「国主（こくしゅ）が仰（おっしゃ）ったのは斯々然々（かくかくしかじか）、今いらっしゃるあなたの御心（おこころ）は斯々然々（かくかくしかじか）でございましょう。なぜに嘘を仰（おっしゃ）るのですか？」と言うと、使者（ししゃ）は陳謝（ちんしゃ）するばかりで、尋（たず）ねるよう申し付けられていた質問を聞いて帰ります。

黒田忠之公（くろだただゆきこう）は、その後に改めて、妄（みだ）りに怪異（かいい）を信じることのない権臣（けんしん）の村山氏（むらやまし）を遣（つか）わして真偽（しんぎ）を確かめさせます。櫻井（さくらい）に向かって、七寺川（ななでらがわ）（長垂海浜公園（ながたれかいひんこうえん）付近）を渡っていた時、村山氏（むらやまし）は知人に会い、公命（こうめい）にて櫻井（さくらい）に参（まい）ることを述べ、浦姫（うらひめ）の御神託（ごしんたく）なぞ戯言（ざれごと）だと言って足を進めます。前回と同様、事前に見通していた浦姫（うらひめ）は、疑心（ぎしん）のみで村山氏（むらやまし）が訪れることを予見（よけん）しながらも、国主（こくしゅ）からの遣（つか）いであるからとして対面（たいめん）を待っていました。

そして村山氏（むらやまし）が訪れると、遠方からの労苦を労（いたわ）るも、本心を違（たが）えての遣（つか）いであり、七寺川（ななでらがわ）を渡っていた時に起きたこと、その時の心根（こころね）を事細かに言い当てたのでした。続けて、「神慮（しんりょ）の妙（たえ）なることは凡夫（ぼんぷ）には計（はか）ることができないもので、その曇った心根（こころね）に映るはずもない。その様な者に何を述べることがありましょうか」と言い残し、座（ざ）を背（せ）にしたのでした。

村山氏（むらやまし）が計（はか）り難（がた）き神慮（しんりょ）を畏（おそ）れて黙り込んでいると、浦姫（うらひめ）は「誤りは誤りとして改めるのが良い。疑うことを辞めずに国主（こくしゅ）に報告するのは良くない。もし問われることがあれば申せ」と云います。村山氏（むらやまし）は主君（しゅくん）が仰（おっしゃ）ったことを始め、様々なことを質問しますが、ひとつとして違（たが）えることがなかったことから、ついに信心（しんじん）を起こしてその由縁（ゆえん）を黒田忠之公（くろだただゆきこう）へ報告したのでした。その後、黒田忠之公（くろだただゆきこう）は自（みずか）ら櫻井（さくらい）に参詣（さんけい）し、様々に質問すると全てに御神託（ごしんたく）があったことから大いに感じ入る所となりました。黒田忠之公（くろだただゆきこう）は度々（たびたび）参詣（さんけい）するようになり、吉凶（きっきょう）禍福（かふく）を問うと必ず御神託（ごしんたく）があり、神威（しんい）が示されることも数知れず起こったのでした。大いに稜威（みいつ）を感じ、尊崇（そんすう）の念を深めた黒田忠之公（くろだただゆきこう）は、御社殿（ごしゃでん）と造営（ぞうえい）を発願（ほつがん）されます。

そして天照大神宮（あまてらすだいじんぐう）を建立（こんりゅう）するよう御神託（ごしんたく）があったことから、櫻井神社（さくらいじんじゃ）に先立って神明造（しんめいづく）りと茅葺（かやぶき）の三殿（さんでん）を造営（ぞうえい）します。伊勢神宮（いせじんぐう）の祠官（しかん）・橋本氏（はしもとし）をして内宮（ないくう）・外宮（げくう）の御分霊（ごぶんれい）を奉祀（ほうし）させ、寛永（かんえい）2年（1625）9月11日に櫻井神社（さくらいじんじゃ）の南西130mほどの光寿山（こうじゅさん）の麓（ふもと）に櫻井大神宮（さくらいだいじんぐう）が創建（そうけん）されました。櫻井大神宮（さくらいだいじんぐう）は内宮（ないくう）・外宮（げくう）を1宇（う）に合祀（ごうし）されたので、両大神宮（りょうだいじんぐう）とも称（たた）えられました。本殿（ほんでん）の千木（ちぎ）は向って右が内削（うちそぎ）で、内宮（ないくう）（天照大御神（あまてらすおおみかみ））を現し、向かって左が外削（そとそぎ）で外宮（げくう）（豊受大御神（とようけのおおみかみ））を現わした独特の建築様式です。

また、櫻井大神宮（さくらいだいじんぐう）は創建（そうけん）以来、伊勢神宮（いせじんぐう）の古式（こしき）に習（なら）い宮地（みやち）を2ヶ所に定めて、20年毎に交互に遷宮（せんぐう）せられてきましたが、慶応（けいおう）2年（1866）式年（しきねん）遷宮（せんぐう）13回目にして止まり、現社殿（げんしゃでん）はその当時のものです。因（ちな）みに伊勢神宮（いせじんぐう）式年（しきねん）遷宮（せんぐう）に際して第60回（平成5年・1993）の折には風日祈宮（かざひのみのみや）、第61回（平成25年・2013）の折には佐美長神社（さみながじんじゃ）の御鳥居（おとりい）が頒賜（はんし）移築されています。

櫻井大神宮（さくらいだいじんぐう）に続いて寛永（かんえい）6年（1629）に櫻井神社（さくらいじんじゃ）が着工。この造営（ぞうえい）に際し、御神託（ごしんたく）も数多くなされ、寛永（かんえい）6年（1629）11月3日の御託宣（ごたくせん）では、次の御神託（ごしんたく）がありました。

岩戸（いわと）の前の山を引ならし、池を堀り谷を埋め門前の町割（まちわり）まで整えられ、神殿（しんでん）・拝殿（はいでん）・楼門（ろうもん）・廻廊（かいろう）・石鳥居（いしとりい）・神池（かみいけ）・御苑石（ごえんせき）・燈籠（とうろう）等に至るまで全て造営（ぞうえい）せられました。金欄（きんらん）・蜀江（しょっこう）・錦（にしき）を各1巻。宝玉（ほうぎょく）、その他種々の宝物（ほうもつ）・神馬（しんめ）に至るまで奉納（ほうのう）され、寛永（かんえい）9年（1632）に創建（そうけん）されました。

創建（そうけん）に際しては、京都の吉田家（よしだけ）より鈴鹿（すずか）兵部少輔（ひょうぶしょうゆう）治忠（はるただ）を招請（しょうせい）して神事（しんじ）が行われ、社号（しゃごう）を與世姫大明神（よよひめだいみょうじん）（与止妃大明神（よどひめだいみょうじん））と崇（あが）め奉（たてまつ）られました。社域（しゃいき）33,000平方坪。神殿（しんでん）、拝殿（はいでん）をはじめ楼門（ろうもん）、廻廊（かいろう）、石鳥居（いしとりい）、神池（かみいけ）、神橋（しんきょう）など備わり、稀（まれ）にみる壮麗（そうれい）を極めたものでした。岩戸（いわと）近くの本殿（ほんでん）に神直日神（かむなおひのかみ）、大直日神（おおなおひのかみ）、八十枉津日神（やそまがつひのかみ）の三柱（みはしら）を祀（まつ）り、それまで京都の吉田神社（よしだじんじゃ）から分祀（ぶんし）されることのなかった斎場所大元宮（さいじょうしょだいげんぐう）（神祇殿（じんぎでん））、別称、八角社（はっかくしゃ）も勧請（かんじょう）し、その御祭神（ごさいじん）の天神地祇（てんしんちぎ）八百萬神（やおよろずのかみ）を祀（まつ）りました。

宝剣（ほうけん）、几帳（きちょう）、御幣（ごへい）、金銀幣（きんぎんへい）などの神物（しんもつ）・神具（しんぐ）は、吉田神社（よしだじんじゃ）にて造られたものが奉納（ほうのう）され、大刀（たち）、錦（にしき）・金襴（きんらん）などの神宝（しんぽう）、黒田長政公（くろだながまさこう）が朝鮮より持ち帰った宝珠（ほうじゅ）も奉納（ほうのう）されました。また、高さ2寸5分（約7.5cm）、廻り8寸（約24cm）の大きさの紫色の玉が、岩屋（いわや）の内に神宝（しんぽう）として奉安（ほうあん）され、乗蔵（のりくら）（浦姫（うらひめ））が海宮（わたつみのみや）を訪れた際、海神（わたつみ）より託されたものと伝えられています。

それに続けて、黒田忠之公（くろだただゆきこう）が38歳になった時、天下に佳名（かめい）を掲（かか）げるであろうと御告（おつげ）があり、果して38歳となった寛永（かんえい）18年（1641）黒田忠之公（くろだただゆきこう）は肥前国（ひぜんのくに）長崎の藩鎮（はんちん）となりました。

浦姫（うらひめ）は寛永（かんえい）13年（1636）12月2日に68歳で亡くなります。その亡くなる際にも様々な不可思議（ふかしぎ）が起こったとされています。尚（なお）、浦姫（うらひめ）は、居住（きょじゅう）していた岩松城（いわまつじょう）の屋敷址（やしきあと）の浦姫宮（うらひめぐう）に浦比咩大神（うらひめのおおかみ）として祀（まつ）られており、命日の12月2日に例祭（れいさい）が奉斎（ほうさい）されています。

また、黒田忠之公（くろだただゆきこう）が逝去（せいきょ）された後、宰臣（さいしん）の黒田一任（くろだかずとお）と浦姫（うらひめ）の子孫の浦毎成（うらつねなり）は相計（はいはか）って黒田忠之公（くろだただゆきこう）を御祭神（ごさいじん）として祀（まつ）ることとし、吉田家（よしだけ）より神号（しんごう）を申し受け、島岡大明神（しまおかだいみょうじん）と崇（あが）め参らせ、毎月12日を祭日（さいじつ）として伝えています。

歴代の国主（こくしゅ）・黒田氏（くろだし）からのと尊崇（そんすう）厚く、社殿（しゃでん）の修繕（しゅうぜん）、神器（じんぎ）・神具（しんぐ）・祭祀料（さいしりょう）等一切の寄進（きしん）があり、年中の大祭（たいさい）には国主（こくしゅ）自（みずか）ら参拝（さんぱい）、又は重臣（じゅうしん）の代参（だいさん）がありました。能楽（のうがく）及び大神楽（だいかぐら）・流鏑馬（やぶさめ）などの奉納（ほうのう）があり、筑前国中（ちくぜんのくにじゅう）からの崇敬（すうけい）を集めました。正徳（しょうとく）5年（1715）4月7日には与止姫大明神（よどひめだいみょうじん）に正一位（しょういちい）勅許（ちょっきょ）。

明治2年（1869）櫻井神社（さくらいじんじゃ）と改称され、櫻井村（さくらいむら）の氏神（うじがみ）に許可されます。明治14年（1881）1月27日村社（そんしゃ）に定められ、同年2月に櫻井村内（さくらいむらない）にあった久保宮（くぼのみや）・西宮神社（にしのみやじんじゃ）・熊野宮（くまのぐう）・伊牟田八幡宮（いむたはちまんぐう）、・谷熊野神社（たにくまのじんじゃ）・木浦神社（きうらじんじゃ）・梅宮（うめのみや）・末松神社（すえまつじんじゃ）の8社の御祭神（ごさいじん）も八所産土大神（やところうぶすなおおかみ）として合祀（ごうし）。大正12年（1923）7月31日に県社（けんしゃ）へ昇格（しょうかく）しました。

昭和52年（1977）4月9日に本殿（ほんでん）・拝殿（はいでん）・楼門（ろうもん）が、平成15年（2003）には太鼓橋（たいこばし）は県指定有形文化財として指定されました。

黒田騒動（くろだそうどう）は、元和（げんな）9年（1623年）黒田長政公（くろだながまさこう）の没後、黒田忠之公（くろだただゆきこう）が2代藩主（はんしゅ）になってから始まります。藩主（はんしゅ）に着いたばかりの黒田忠之公（くろだただゆきこう）は、自（みずか）らの側近を重用（ちょうよう）し先代からの重臣（じゅうしん）らと対立します。そして櫻井神社（さくらいじんじゃ）が創建（そうけん）された寛永（かんえい）9年（1632年）の6月、一番家老（いちばんかろう）で麻底良城（まてらふじょう）の城主であった栗山大膳（くりやまだいぜん）が江戸幕府に「藩主（はんしゅ）に反逆の企（くわだ）てあり」との訴状（そじょう）を差し出したのでした。

幕府から呼び出されることになった福岡藩（ふくおかはん）は、急ぎ家老（かろう）を江戸へ上らせます。藩の取り潰しも予想される中、最終的に3代将軍・徳川家光（とくがわいえみつ）が直々に裁（さば）いた結果、黒田忠之公（くろだただゆきこう）側の主張を認め、所領安堵（しょりょうあんど）の触（ふ）れを出し、10年に及ぶ抗争に幕を閉じました。

この黒田騒動（くろだそうどう）の中、黒田忠之公（くろだただゆきこう）は浦姫（うらひめ）のもとへお忍びで訪れ、江戸の成り行きを尋（たず）ねたと伝えられています。浦姫（うらひめ）は庭にある榎（えのき）の大木に登り、江戸の方を見つめ一心に思いを凝（こ）らします。しばらくすると、浦姫（うらひめ）の心に江戸城の裁（さば）きの様子が映り、家老（かろう）の明快な返答ぶりを教えました。黒田忠之公（くろだただゆきこう）は、その信じられないような能力に驚かれ、後に浦姫（うらひめ）の話が事実と少しも違わないことを知るとその信頼は益々深まり、難しい事が起こる度（たび）に相談されたとされています。尚（なお）、このとき浦姫（うらひめ）が登ったとされる榎（えのき）は、浦姫宮（うらひめぐう）の榎（えのき）とされています。後に枯れてしまうも古株から芽を出した若木（わかぎ）があり、浦姫（うらひめ）の生まれ変わりだと言い伝えられて今も残されています。

浦姫（うらひめ）が亡くなった後、その息子・善兵衛（ぜんべえ）の子である宮内治重（みやうちはるしげ）が祠官（しかん）となり、黒田忠之公（くろだただゆきこう）より吉田神社（よしだじんじゃ）に派遣（はけん）され神事（しんじ）を学びますが、夭折（ようせつ）します。その弟の宮内毎成（みやうちつねなり）はまだ幼かったため、黒田忠之公（くろだただゆきこう）の家臣の山部治右衛門（やまべじえもん）を浦姫（うらひめ）の娘の贅婿（せいぜい）とし、神官（しんかん）となりますが、3年で亡くなります。黒田忠之公（くろだただゆきこう）は、既に成長していた宮内毎成（みやうちつねなり）を次の祠官（しかん）を命（めい）じ、当社神職（しんしょく）の長としました。2代続けて早世（そうせい）したことから毎成（つねなり）の身を恐れるものが多い中、明敏（めいびん）な宮内毎成（みやうちつねなり）は寿夭（じゅよう）は皆、天命（てんめい）なることと、少しも心にかけず祠官（しかん）を務め、派遣（はけん）された吉田神社（よしだじんじゃ）で唯一神道（ゆいいちしんとう）を学び、三壇上（さんだんのじょう）を伝授（でんじゅ）されました。その後、浦権頭太輔（うらごんのかみたいすけ）と称して浦姓（うらせい）を名乗って帰国し、国中の社職（しゃしょく）の総司（そうづかさ）として諸社（しょしゃ）の神職（しんしょく）の中でも志（こころざし）ある者は、浦氏（うらし）の吉田流（よしだりゅう）（吉田神道（よしだしんとう））に帰（き）する所となりました。

浦毎成（うらつねなり）には妹が2人あり、上の妹を武藤氏（むとうし）に嫁がせて浦姫（うらひめ）の住んだ家（浦姫宮（うらひめぐう））を継がせ、下の妹は神田氏（かんだし）に嫁いで男子を取り上げます。武藤氏（むとうし）は後に黒田忠之公（くろだただゆきこう）に使える武士となったことから家（浦姫宮（うらひめぐう））を神田氏（かんだし）の子に譲るのと共に、武藤氏（むとうし）の娘を娶（めと）らせ、その子孫が継いでいます。浦姓（うらせい）の子孫、及び旧社家（きゅうしゃけ）の子孫が年々祭事（さいじ）を務め、浦姫（うらひめ）の曽孫（そうそん）の浦毎昭（うらつねあき）によって元禄（げんろく）2年（1689）に書かれた縁起（えんぎ）が残されています。