花尾神社（はなおじんじゃ）は、薩摩藩祖（さつまはんそ）の島津忠久（しまづただひさ）（惟宗忠久（これむねのただひさ））が薩隅日三州（さつぐうにちさんしゅう）の守護職（しゅごしき）に任じられ下向（げこう）したおり、建保（けんぽう）6年（1218）源頼朝（みなもとのよりとも）の尊像（そんぞう）を花尾山（はなおやま）の麓（ふもと）に安置（あんち）したのが創建（そうけん）です。島津忠久（しまづただひさ）は、源頼朝（みなもとのよりとも）の庶子（しょし）と伝えられ、源頼朝（みなもとのよりとも）の側室（そくしつ）であった丹後局（たんごのつぼね）が生母（せいぼ）とされています。

島津忠久（しまづただひさ）を身ごもった丹後局（たんごのつぼね）は、正室（せいしつ）の北条政子（ほうじょうまさこ）から嫌がらせを受けて鎌倉から摂津国（せっつのくに）の住吉大社（すみよしたいしゃ）に逃れます。丹後局（たんごのつぼね）は、外で静かな雨が降る夜更け、狐火（きつねび）に照らされる中、島津忠久（しまづただひさ）を出産したとされ、稲荷明神（いなりみょうじん）の助けにより安産であったと伝えられています。

「花尾大権現廟記（はなおだいごんげんびょうき）」によると、島津忠久（しまづただひさ）は、母の丹後局（たんごのつぼね）と養父の惟宗廣言（これむねのひろこと）を薩摩国（さつまのくに）に迎え、惟宗廣言（これむねのひろこと）を市来（いちき）の地頭職（じとうしき）に任じ、丹後局（たんごのつぼね）に満家院（みつえいん）の厚地村（あつちむら）と東俣村（ひがしまたむら）を与え、丹後局（たんごのつぼね）はここに居（きょ）を構えたとされています。

丹後局（たんごのつぼね）は安貞（あんてい）元年（1227）に亡くなり、遺言によってこの地に葬られます。丹後局（たんごのつぼね）が厚く帰依（きえ）し、当社の別当寺（べっとうじ）の平等王院（びょうどうおういん）、及び付属三十六坊の開山となった僧である永金阿闍梨（ようぎんあじゃり）もこの地に祀（まつ）られ、歴代藩公（はんこう）をはじめ厚くこれを尊崇（そんすう）しました。

参道（さんどう）右手上側に鎮斎（ちんさい）されている数十基に及ぶ石塔群（せきとうぐん）がその墓とされ、丹後局（たんごのつぼね）・僧永金（ようぎん）及び鎌倉から随従（ずいじゅう）の武臣（ぶしん）の墓が現存しています。丹後局（たんごのつぼね）の墓（多宝塔（たほうとう））は、島津家（しまづけ）の家紋（丸に十の字）、神号（しんごう）や安貞（あんてい）元年（1227）丁亥（ひのとい）十二月十二日の刻字（こくじ）があり、よく整った多宝塔（たほうとう）ですが、これは近世に建てられたものと思われています。この多宝塔（たほうとう）の右下方に御苔石（おこけいし）と言われる石塔（せきとう）があります。これがもともとの丹後局（たんごのつぼね）の墓塔（ぼとう）ではないかと推量され、御苔石（おこけいし）についている苔（こけ）を少しだけ持って帰ると、安産・子授けの御利益があるとされています。尚、参道（さんどう）の左下には丹後局（たんごのつぼね）の御灰塚（ごはいづか）・茶毘所跡（だびしょあと）等があります。

最初の社殿（しゃでん）は、花尾山（はなおやま）の頂上にあったと伝えられ、歴代藩主（はんしゅ）が崇敬（すうけい）し保護したため、社域（しゃいき）は壮麗（そうれい）を極めました。現社殿（げんしゃでん）は、正徳（しょうとく）3年（1712）建造で極彩色（ごくさいしき）の権現造（ごんげんづく）り。三室（さんしつ）（本殿（ほんでん）・幣殿（へいでん）・拝殿（はいでん））の格子天井（こうしてんじょう）には約400枚の草花（くさばな）の絵が極彩色（ごくさいしき）で描かれています。組物（くみもの）は出組（でぐみ）と平三斗組（ひらみつとぐみ）で、蟇股（かえるまた）とそこに描かれた牡丹の絵、また幣殿（へいでん）や向拝（こうはい）の彫刻や装飾は壮麗（そうれい）で工芸美術の粋（すい）を集め、高尚（こうしょう）にして格調高く、「さつま日光（にっこう）」と称されています。

島津氏（しまづし）の縁（ゆかり）の神社であることから、琉球使節（りゅうきゅうしせつ）が派遣された折りには必ず参詣（さんけい）する神社となっており、安永（あんえい）2年（1773）と天明（てんめい）7年（1787）の銘（めい）を持つ琉球使節（りゅうきゅうしせつ）奉納（ほうのう）の扁額（へんがく）が残されています。

社殿（しゃでん）向かって右手には、摂末社（せつまっしゃ）として稲荷神社（いなりじんじゃ）と春日神社（かすがじんじゃ）が祀（まつ）られています。